■ 見目麗しいストーカー ■ (前編) その日の朝から、事件は始まった。 ある男の出現が事件を引き起こしたのだった。 「今日から、あなたをストーカーします。」 明菜は目を丸くして、目の前を見た。 目前に立つのは見目麗しい青年だ。かっちりとしたスーツを着た男が、目の前に立っている。 ――――……ストーカー? あぁ、聞き間違いよね? 「聞いていますか、神林明菜(かんばやし あきな)さん。」 「な、なんであなた私の名前を知っているの!?」 初対面のはずの男。 絶対に一度も会ったことはないわ。 だって、こんなにカッコイイ男なら一度会えば覚えているだろうし。 「えぇ……と。」 なぜか、そこで男は口ごもった。 顔色は変わっていないが、たぶん困っているんだよね? きれいな顔は少しも崩れず、表情がつかめない。 「私はあなたのストーカーだからです。」 「どんな理由よ?」 ストーカーが、標的相手に宣戦布告?! 聞いたことないわよ。 いったい、どういうつもりなのかまったくわからない。 「とにかくそういうことなので、今日からよろしくお願いします。」 男は頭を下げて歩いて行ってしまった。 ……なにがとにかくそういうこと≠ネのかちっとも意味がわからない。 で? 私、今日からストーカーされるわけ? ◆ ◆ ◆ 「あっきな!」 大学の門をくぐったところで、友人の綾子に声をかけられた。 「なにか浮かない顔ねぇ。どうかした?」 「う〜ん、別に」 「もしかして、明菜のあとをつけている男に関係ある?」 「あとをつけている男!?」 明菜はバッと振り返った。 背後ですばやい音がして、誰かの影が電柱に隠れた。 ―――…って電柱から洋服の裾がはみ出てますよ? 「……あれ、なに?」 綾子も明らかに不信そうに顔をしかめている。 明菜は小さくため息をついた。 「私のストーカー」 次の瞬間短い間を置いた後、綾子の悲鳴が周囲に響き渡った。 授業が終わって教室から、ちらほら人が出て行く。 明菜は机の上の片づけをしながら、小さくため息をついた。 「あ〜きぃな!なんで、ストーカーの被害にあってるわけ!?」 たぶん問い詰められるだろうなぁと思っていたら、案の定綾子が眼前に迫っていた。 「明菜、一人暮らしでしょう?危ないじゃない!」 少し起こったような声がして、頭の上で響く。 ……怒ってる? ちらっと綾子を見上げると、真顔で明菜を見下ろしていた。 明菜は彼女の不安を払拭させるように明るく笑った。 「大丈夫よ。ストーカーって言っても、あれは大丈夫だから」 「大丈夫ってねぇ」 「なんか平気な気がするのよ。まぁ、やばくなったら声かけるから」 軽く言って、明菜は荷物を持って立ち上がった。 バイバイと小さく手を振って、廊下に出る。 寒気が肌に当たって、小さく体が震えた。 明菜は、大学生になると同時に家を出て今は一人暮らしている。明菜の両親は幼いころに亡くなっていて、親戚の家に居候して暮らしていた。親戚の家はあたたかったが、居づらくて結局今は一人で暮らしている。 確かに一人暮らしの私にストーカーってかなり危なそう。 だけど、なんだかあまり危険を感じないのよね。 無表情な彼に危機感というものが感じられない。 この状況に気味の悪さは感じているものの、危機感が一ミリも感じられない。 ―――……どうしてだろう。 「お疲れ様です。」 帰りがけ、校門をくぐったところでストーカーにすれ違った。 ……って、ストーカーがお疲れ様=I? 意味がわかんない! 「ちょっと待って!」 「はっ?」 「あなた、私のストーカーだって言ったわけよね?」 「まぁ」 「お疲れ様≠チて……」 「今日も一日、無事学業を終えられたようですので、お疲れ様とお声をかけました。」 ……そんな理屈あり? 「あなた、なんで私なんかのストーカーしているわけ?」 「なんで……と言われましても」 「私が好きなの?」 「それもまた違うというか、なんというか……」 あぁぁぁぁ〜〜〜!!もう、いらいらする!!! いったい何が言いたいのよ!この男 「いったい、あんたは誰なのよ!?」 どなった私に、彼は「あぁ」とうなづいた。 「それにはお答えできます。」 彼はしっかりとうなづくと、私の目を見てはっきりと言った。 「所謂、魔法使いです。」 私はくらっと視界が反転するのを感じた。 |