―― ゲスト様作品 by 桜ん坊様―― 恋愛事情 俺の彼女はとても淡白だ。 物事に熱心でないし、関心や興味なんてない。 付き合う前もそうだった。 『俺と付き合ってください!』 俺は一世一代の決心をし、彼女を裏庭に呼び出して告白した。 『はい。いいですよ』 あっさり返事が返ってきた。 それも、イエスの返事。 彼女は何事にも無関心だから、興味がないなどと言われて振られるのだろうと思っていた。 『ま、ままままマジで!?本当に!?』 『はい。付き合いましょう』 何かの間違いかと思い、再度確認するが、返事は変わらない。 それから、俺は彼女と付き合いだした。 しかし、彼女はあまりにもあっさりしていた。 俺が補習で遅くなると言えば、先に帰ると言うし、彼女が補習で遅くなるときは、先に帰っててと言われる。 突然、デートのキャンセルをしても、わかったと答えるだけで怒りもしない。 デートのときもあまり話をせず、映画を見るくらい。 それに、デートだったり、何だったりを誘うのはいつも俺の方で、彼女からは一切ない。メールも電話も同じで、彼女からは一切ない。 これは果たして付き合っていると言えるのだろうか? そんなこんなで彼女と付き合い始めて2ヶ月が経った。 放課後、彼女と一緒に下校しているときに俺は彼女に問いかけた。 「俺のこと本当に好き?」 俺は不安で彼女に好きかどうか問うが、彼女は俯きながら頷くだけ。好きとは一度も言ってくれない。 ますます不安になる一方だ。 「……どうしてそんなこと聞くの?」 「いや、何でもない……じゃ、また明日」 「うん……」 俺はトボトボと家までの帰り道を歩いた。 さらに、追い討ちがあった。 明日までの英語の宿題で必要なノート。彼女のと間違えて持って帰ってしまった。 彼女も困るだろうと思い、彼女の家に向かった―――。 そこまではいい。しかし、問題はここから。 彼女は知らない男と楽しそうに談笑していた。 俺は胸が痛くなった。 ―――俺の知らない笑顔。 俺の知らない彼女がそこにはいた。 ノートを渡しに行くことも忘れ、俺は意気消沈しながら家まで帰った。 ―――彼女は俺じゃなく、あの男が好きなんだ。 彼女は俺に一度もあんな笑顔を見せてくれなかった。 彼女は俺に一度も『好き』と言ってくれなかった。 それは、彼女が俺を『好き』じゃないから。ただ、俺の告白を断れずに、流されて付き合っていたんだ―――。 そう考えると、笑わずにはいられなかった。 俺は決心した。彼女を本当に好きな奴といさせてあげようと。 次の日。 「大事な話があるから。放課後、屋上で待ってる」 朝、俺は彼女にそれだけ伝えると、教室から出た。 今日は授業を受けられるような気分じゃない。 俺は屋上へ向かった。 どうしようもなく、コンクリートの床に寝そべっていると、キシリと音を立てて扉が開いた。 扉の前に彼女が立っていた。 俺は彼女を見て起き上がった。 「あの……話って?」 彼女は扉の前に立ったまま、俯き加減で俺に聞いた。 俺は一回深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。 「……別れよう」 そう答えると、彼女は顔を上げ、俺を見つめてきた。 「俺と一緒にいても全然楽しそうじゃない。無理して付き合うくらいなら別れよう」 俺は精一杯の作り笑顔で言った。 口は引きつっていたかもしれない。 すると、彼女は俯いた。 何も答えないで、ただ俯いていた。 「……なんで……言うの……」 しばらくして、彼女がか細い声で何か言った。 「え?」 「…なんで、そんなこと言うの?」 彼女は顔を上げ、俺を見つめながら声を荒げ、叫ぶように言った。 ―――泣いてる!? 俺は彼女の涙を見て、動揺した。 「私のこと嫌いになったなら、そんな言い方しないではっきり言って」 こんなに感情を表に出す彼女は初めて見る。声もわずかに震えている。 俺は動揺しながらも、答える。 「俺はお前を嫌いだなんて思ったことは一度もない。でも、お前は俺の知らない男と楽しそうに話してた。俺が見たことのない笑顔で」 ―――俺には一度も見せてくれないのに。 彼女が俯いてしまったのが分かった。 「俺はいつも好きだと言っているのに、お前は一度も好きだと言ってくれない。メールも電話もお前からしてきたことはないし、そっけない。どう考えても俺のこと好きだとは思えない」 俺が言いたいことを言い終えたが、彼女は顔を上げなかった。 「……き」 彼女が何か言ったが、聞き取れなかった。 また、『え?』と反応すると、彼女は顔を上げた。その顔は赤い。 「好きなの!好きだから……だから、別れるなんて言わないで!」 彼女はそう叫ぶと、また涙を流した。 俺は彼女の腕を掴み、抱き寄せた。 「嬉しいよ……お前がこんなにも感情を出してくれることが……俺、ずっと不安だった」 彼女の耳元で、そう囁いた。 すると、彼女が俺の背中に腕をまわした。 「不安だったのは私の方。付き合うって言っても、どうすればいいかわかんないし、わがまま言って困らせたくなかったから……だから、物分りのいいフリしてた。嫌われたくなかったから……」 彼女が愛おしくて、さらに強く抱きしめた。 「お前、可愛すぎ」 呆れるようにして囁いた。 すると、彼女はあわてて俺を離した。 彼女の顔は真っ赤になっていた。 「好きだ」 彼女の体を引き寄せ、口付けた。
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